生きてきたように死んでいく / 人を生かす
死因を選ぶことはできないが、
「死に方」は努力次第で
変えることができるかもしれない。
人は、死に直面しても、
人格や考え方が
大きく変わるものではありません。
これまで、数々の方の
死に立ち会ってきましたが、
人は、それまで生きてきたように
死んでいくものだと実感しています。
週刊現代 2013年12月21日号
小野寺
。。。。。。。。。。
五十を過ぎてから縊死した男は
わたしの従兄弟だった。
いつも笑顔を絶やしたことのない
温和な性格だった。
わたしもああいうふうに笑顔で生きたいと
ずっと思っていた。
彼こそ人格の完成者だと確信していた。
その人が、飼い犬を預けるために
親戚を回ってから、首を吊ったのである。
わたしが生まれて初めて使った
野球のグローブも、
愛用した紺色の自転車も
その人のお下がりだった。
わたしの少年時代の記憶は
その人なしにありえないのである。
その人はわたしの書いた本を
せっせと買っては
図書館に寄付していたという。
なのに、わたしは彼に何もあげていない。
葬式にも出ていない。
自殺とは、自分を殺すことではない。
人生を否定し、人生を殺すことだ。
その人を愛した人の人生をもだ。
生まれた以上、生きなければならない。
自分が生きることは
人を生かすことだ。
それ以上の尊い贈り物はないだろう。
白取春彦 作家
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