大岡信を送る 谷川俊太郎

本当はヒトの言葉で君を送りたくない

砂浜に寄せては返す波音で

風にそよぐ木々の葉音で

君を送りたい

声と文字に別れを告げて

君はあっさりと意味を後にした

朝露と腐葉土と星々と月の

ヒトの言葉よりも豊かな無言

今朝のこの青空の下で君を送ろう

散り初(そ)める桜の花びらとともに

褪せない少女の記憶とともに

君を春の寝床に誘(いざな)うものに

その名をしらずに

安んじて君を託そう


大岡信を送る

二〇一七年卯月

谷川俊太郎

青空通信

双子の子育てや離婚、自分の成長、 他の方々から頂いた言葉、 出会った言葉を綴っています。

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