物語1 Salina Carter の手紙 (1)

陸くんと海くんへ

はじめまして。

わたしのなまえは サリーナ・カーター。

ようせいの おんなのこです。

たくさん てがみをかいてくれて

ありがとう。

てがみをもらったのは はじめてだったので

とても とても うれしいです。


そして 抜けた 下のまえばを

まくらの下に いれてくれてありがとう。

ピカピカの きれいな はですね。

おれいの コインは きにいりましたか。

わたしは 子どもたちの きれいなはで

ピアノのけんばんを つくっています。

まだ はは8本しか あつまっていないけれど

いつか じぶんでつくったピアノを

ひきたいのです。

ようせいは みんな なにかひとつ

がっきがひけるのですよ。

バイオリン フルート ハープ ピアノ…。


まいとし 10月の まん月の夜

こうえんの森では ようせいたちの

おんがくかいが ひらかれます。

月がのぼってから しずむまでの

とてもたのしいじかんです。

ひとりでひいたり みんなでえんそうしたり

おんがくにあわせておどったり

ごちそうをもちよったりして たのしみます。

わたしがすきなものは どんぐりのクッキー

トチの実のケーキ 

ヤマモモや ゆすらうめのジャムを入れた

お茶です。


ことしの おんがくかいで

わたしは はじめて えんそうします。

まだまだ じょうずじゃないけれど

じぶんのピアノもないけれど

うまくひけるように

トチの木に すんでいる

おにいさんのピアノをかりて

まいにち れんしゅうしています。


わたしは こうえんの まんなかにある

けやきの木で うまれました。

とても大きな おじいさんの木です。

ようせいが どうやって うまれるか

しっていますか。


ようせいには

おとうさんも おかあさんもいません。

わたしは はじめ

ひとつぶの しずくだったそうです。

しずくに おひさまの 光があたって

風が 花のにおいを はこんできて

よるがきて あさがきて

なん日も なん日もたつうちに

わたしの からだの かたちが

できてきたそうです。


ある日 ことりのこえと

こどもたちの わらいごえが きこえてきて

わたしは 目をあけました。

そこは たかい木の えだでした。

ずっしりとした やさしいこえが

きこえました。

「うまれたね おめでとう

 なまえはなんというんだい」 

それは わたしが うまれた木

おじいさんの けやきのこえでした。

「サリーナ・カーターといいます」

なぜだか わたしは

じぶんのなまえを しっていました。

なぜなのかは わたしにもわかりません。

ようせいは みんな うまれたときから

なまえをもっているのです。


おじいさんの木には たくさんのしずくと

ようせいがいました。

ようせいは にんげんのような

からだのかたちですが

ちいさなはねが せなかにあります。

おおきさは にんげんの

おとなの おやゆびぐらいから

手のひらぐらいまで  いろいろです。


ようせいは うまれときから

ずっと かわりません。

だんだんと 大きくなったり しないのです。

からだは ほとんど とうめいで

すこしひかっています。

ひかりのいろは ようせいによって

すこしずつ ちがいます。

きているものも うまれたときからのもので

ようせいによって

てざわりも かたちもちがいます。

よごれたり ふるくなったりしません。

わたしは ぎんいろにちかい きんいろで

そでのない ひざまでの

やわらかなワンピースを きています。


とりのように はやくはとべません。

ちょうちょと おなじぐらいの はやさです。

わたしたちは あまりおおくは たべません。

おひさまの 光をあびて

しっとりとした木のはや

くさのうえで ねむれば

ずっとずっと いきていられます。

でも よごれた雨や風にあたったり

かなしいことをみたり きいたりすると

あっというまに 力がなくなって

くうきに とけてしまいます。


ずっとまえに このちかくで

じてんしゃにのった にんげんのこどもが

くるまとぶつかって

しんでしまったそうです。

あるようせいが それを

ぐうぜん みてしまいました。

そのようせいの かなしみは

すぐにまわりのようせいに つたわって

なんびゃくもの ようせいが

くうきに とけて きえてしまったそうです。


ようせいの くうきは かなしみの風になって

そのばしょで ぐるぐると

うずをまいていたそうです。

その風がおさまるまでには なんねんも

なんねんも かかったそうです。

青空通信

双子の子育てや離婚、自分の成長、 他の方々から頂いた言葉、 出会った言葉を綴っています。

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