2018.09.26 11:51物語13 「鍵」あとがき陸と海が高校1年の夏、15歳もあとすこしでおしまいのころ、やっと4話目の物語を書き、陸と海、それぞれ別々の時間に読んでもらった。双子のふたりは同じ反応だった。「ふーん」とあっさり。感想はなく、文章の指導をしてくれた。そして間をおいて、「信じてた頃を思い出した」と、「変な母親に育てられた」と嬉しそうに言った。高校の3年間でふたりはぐっと成長...
2018.09.19 11:56物語12 Salina Carter の 鍵(3)どれだけ時間がたったのか分かりませんでしたが、わたしは消えずにいました。耳も聞こえるようになりました。どこかで落としたのか、カギはありません。けやきのおじいさんのところへ行きました。冬はとうに終わり、桜の花びらがぬれた地面にはりついていました。けやきのおじいさんは何も言いません。公園へ行ってみました。暖かい季節になったのに、ようせいたちは...
2018.09.12 11:58物語11 Salina Carter の 鍵(2)次の朝、また水の玉に会えるかもしれないと思い、勇気を出して、さんばしのいちばん先につないであるボートのへさきにすわりました。かわらず波はおだやかでしたが、魚が近くではねて、飛び上るほどおどろいたり、おそるおそる水中をのぞいて、落ちたらどうしよう、浮かんでこれなかったらどうしよう、と心配したりしながら待っていました。あんまりこわくて、もうも...
2018.09.05 11:46物語10 Salina Carter の 鍵 (1)陸くんと海くんへ前の手紙からずいぶん時間がたってしまいました。いろいろなことがあり、思うことがうまく言葉にできずにいました。15歳になりましたね。背も高くなって、声も変わって、見るたびにびっくりしています。今でもわたしのことを思い出すことはありますか。陸くんと海くんが小学2年生の9月。れいちゃんに届いたマーレからの手紙を、わたしに読ませて...
2018.08.29 11:29物語9 「一歩」あとがきももさんとわたしのメールもも:読んだよ。 コーヒーなんていらないくらい、一気に。 れいも読んでた。 ほとんど自分の力で読んでいた。 そして、読み終わった途端、吸い込まれるように寝た。わたし:自力で読むなんてすごいね。 読み聞かせたって分からないよなって思いながら書いたんだよ。 でも、今分からなくてもいいと思ったんだ。じわっと沁み込んで、い...
2018.08.22 11:39物語8 Mare の 一歩 (3)いろいろな人のドアを開けました。一度開いたドアがまた閉じてしまうこともありました。何度も開いて、何度も閉じた鍵穴は、傷ついて、光も弱く、なかなか開けることができません。人によっては、12のうちのひとつのドアも開くことなく、鍵穴のほとんどが埋まって見えなくなっていることもありました。可哀想なその人が、疲れて眠るたび、ボロボロの鍵穴に鍵を入れ...
2018.08.15 11:55物語7 Mare の 一歩 (2)私は、私に気づいてからも、動くことはできませんでした。体は 砂が詰まったように重く、向きを変えるのがやっとでした。木の上からずっと空や子どもたちを見て過ごしました。子どもたちからたくさんの幸せをもらいました。気がつけば、悲しい気持ちは消えていました。あなたが6歳になって他の子どもたちと一緒に卒園する日、私は涙が止りませんでした。私の涙は空...
2018.08.08 03:05物語6 Mare の 一歩 (1)れいちゃんへはじめまして。私はマーレ、幼稚園の桜の木に住んでいる妖精です。週に1度、あなたが幼稚園にくるのをとても楽しみにしています。私は、少し前まで、ずっと動かずに空を見ていました。いいえ、本当は動かないでいることも、空を見ていることも、知らず、ただ目を開けていました。いつからそうしていたのかも思い出せないけれど、ずっとずっと動かず、音...
2018.08.01 11:32物語5 「家」あとがき2006年5月。妖精から一通目の手紙を受け取るとすぐに、海は、ピアノの成り立ちの絵本を本棚から出してきて、テーブルに広げ、毎日一ページずつ、妖精のためにページをめくった。ふたりは、下の乳歯が抜けたあとに2本永久歯が生え、それからしばらくは、どちらも歯が抜けることはなく、それでもときどきサリーナの話をした。初秋、二通目の手紙に書きたいことが...
2018.07.25 11:55物語4 Salina Carter の 家陸くん 海くんへわたしのためにピアノのえほんをひろげてまいにち 一まいずつページをめくってくれてありがとう。とてもうれしかったです。このごろひいている曲は みんなすてきですね。わたしもだいすきです。おぼえた曲もたくさんあって大きなこえでまいにちいっしょにうたっています。きこえませんか?てがみもありがとう。わたしは とてもおどろいています。...
2018.07.18 11:55物語3 「手紙」 あとがき2006年5月9日の夜、眠れない陸に寄り添い床についた。海は、まだ慣れない学校と 久しぶりのスイミングスクールの疲れもあり、身動きもせずぐっすりと眠っていた。「ようせいの手紙、7個目!」と、枕の横に妖精への手紙を置く陸。陸も海も下の乳歯が2本ずつ抜け、それを枕の下に入れる度「歯の妖精」がコインと交換してくれた。もちろん仕込んだのは母親の私...
2018.07.11 11:55物語2 Salina Carter の手紙 (2)ようせいは あかちゃんと小さなこどもが だいすきです。とりわけすきなのはまだ ことばがはなせない あかちゃんです。あかちゃんは ことばは はなせないけれど ようせいだけでなく 風やおひさまの光のせい 木やくさのせいがみえてはなすことができます。あかちゃんは かみさまと てんしのすむせかいのはなしを きかせてくれます。そんなとき あかちゃん...