物語6 Mare の 一歩 (1)

れいちゃんへ

はじめまして。

私はマーレ、幼稚園の桜の木に

住んでいる妖精です。

週に1度、あなたが幼稚園に

くるのをとても

楽しみにしています。


私は、少し前まで、

ずっと動かずに

空を見ていました。

いいえ、本当は

動かないでいることも、

空を見ていることも、

知らず、

ただ目を開けていました。


いつから

そうしていたのかも

思い出せないけれど、

ずっとずっと動かず、

音も聞こえず、

ただ、

明けて暮れる空に向かい

目を開けていました。


ある時、私は、

私がいることに

気がつきました。

開いた目から

涙がこみ上げていました。

お日様のまわりを

ぐるりと虹がまいているのが

見えました。

私の唇は、

「わたしはマーレ、

ようせいのマーレ…」と

つぶやいていました。


雲はひとつもないのに

虹の空から

霧のように細かな

暖かい雨が降っていました。

渇いた土が水を吸うように

体も 手足も 胸の奥も、

潤っていきました。


私の心が動いていました。

体もギシリと動きました。

瞬間、体と心に

刺すような痛みが走りました。

私はひどく傷つき

ひどく悲しかったのです。


空を見つめました。

移り変わる空の色、

流れる雲、瞬く星、

太陽の輝きを。

色が心に沁み

涙は流れ続け、

少しずつ悲しみは

和らいでいきました。

悲しみの底に 静かに 広く

幸せだという気持ちが

横たわっているのを感じました。


私は 私がここにいる

ということが

私が 私だということが

なぜか ただ幸せなのでした。


かすかに音が聞こえました。

シャラシャラという音。

目を閉じて、

大きく息を吸って、

ゆっくりと吐きました。

すると、

詰めた綿が取れたように

急にはっきりと聞こえてきました。


はじけるような笑い声。

首をもたげて体を起こし、

下を見ました。

まばゆい光の洪水に、

目を細めました。

ゆっくりと目を開けると、

光は、小さな人、

子どもたちでした。


少しずつ色合いの違う光。

そのひとつひとつの

きらめきに

また涙が流れました。

その日から

私は 子どもたちを

見ることに夢中になりました。


ある時、

子どもたちの光の中に、

気になる光がありました。

淡い象牙色の優しい光。

小さな女の子でした。

3歳のあなたです。


あなたは

人間の子どものはずなのに、

まるで妖精の

女の子のようでした。

ふわりと光をまとっていて、

時々、妖精の羽が

あるようにも見えたからです。


他の子どもたちも

もちろん大好きですが、

あなたを見ているうちに、

あなたのことがとても

好きになりました。

友達になれそうな

気がしたからです。

妖精の思うことを

わかってくれそうな

気がしたからです

青空通信

双子の子育てや離婚、自分の成長、 他の方々から頂いた言葉、 出会った言葉を綴っています。

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