犬との暮らし
なみとはいつも一緒だった
ソファーでもベッドでもくっついて
違う鼓動 違う温度
事務所にも一緒に出勤した
なみとあちこち旅をした
山で なみは違う顔をした
ニヤリと笑って 藪の中に消える
海では大きな波を飛び越えて
ボールを取りに行く
お墓参りでは
バケツの水をがぶがぶ飲んだ
その泡立った水を
お墓にかけることになったが
私の家は代々犬好きだったからよしとした
救急車のサイレンが近づくと
こらえ切れないように目をぶつり
口を三角にして遠吠えした
その三角がたまらなかった
なみの肉球は
お日様のにおいがした
招いた友人にも嗅いでもらった
つきあいのいい人もいたが
ある正直な男性は
「うっ グローブの臭い」と言った
犬を飼っているといろいろな人と会話する
宅急便のお兄さんたち
子どもたち
ホームレスの人とも
顔なじみになって
ウインナーをくれた
ご近所の史子さんは
ハスキーとゴールデンと
ピレネーを連れて優雅に歩く
3軒隣の子犬は
2階のベランダの柵をすりぬけて
外側を歩くのでハラハラする
お向かいの犬の名はあやのこうじ
おばあさんは 名前を省略せず
犬と会話する
薬屋さんの秋田犬は ナタリー
なでたら
しずかにがっぷりかまれた
右腕にくいこんでる歯を
どうしたものかと
しばらくナタリーと見つめ合った
ゆっくり「あーん」と
放してくれたけど 穴が開いた
飼い主が店からとんできて
手当の商品をたくさんくれた
傷はなかなか治らず
ハート型になって残った
お酒を飲むとほんのり赤くなった
ナタリーは私に愛をくれたんだ
ということにした
公園の草木、渡り鳥…
私たちも若かった
若い時代に大きな犬と暮らせたことは
財産になった
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