時が満ちる
犬と 朝の散歩に出ると
家の前に飛べないハトがいた
散歩から戻っても
まだ同じ場所にいたので
保護することにした
はじめてハトを持った
重さと温度と鼓動を感じた
動物病院で
折れた羽を固定してもらった
かなり羽を抜かれたので心配していると
襲われても逃げられるように
羽は抜けやすくなっていて
再生すると先生が教えてくれた
帰って
段ボールに入れてエサと水をやる
私の手や犬の顔を近づくと
箱の隅で羽音がするほど震える
おとなしくて臆病だ
21日目に包帯が外れ
公園で放してみる
夫が犬を連れて様子を見に来た
犬はゴールデンレトリバー
トコトコ歩くハトに我慢できず
首輪を抜けてダッシュ
くわえて走り回る
慌てて追いかけ 取り返すと無傷
獲物に傷をつけず捕獲することが
この犬種の仕事だという
よかった
毎日2階のベランダで
羽ばたく練習をさせた
ある朝 道路へ落下 トコトコ逃げて
数軒先の車の下へ入ってしまう
その家の人に長い箒で追い出してもらい
道路を走り回って捕獲
大きな鳥かごを買った
観察できるようになった
体を膨らます
羽や尾羽を広げて伸びをする
見事に美しい
36日目
また公園へ
5m 10m
短い距離を何度か飛んでは地面に着地
高く飛び上ったが
アパートの壁に激突して落下
拾いに行くと 野良猫が狙っていた
鳥籠の中でも羽ばたきたがるようになり
風呂場に放す
湯船に浸かりながら眺めていると
羽ばたくときの風の強さに驚かされた
失った羽が再生し
左右のバランスが整う
45日目 大きな公園で放した
他のハトたちより
胸の筋肉が衰えて小さく見える
木の枝に留まって動かない
夕方 戻って探してみたが
どこかへ飛んで行けたよう
少し寂しいような
ホッとしたような
どちらかといえばハトはキライだったが
面白かった
キライだったハトだって面白がれるのだから
もしかしたら
子どもも育てられるかもしれないと
空いた鳥かごを見ながら
ぼんやりと考えていた
母に誘われ 熊田千佳母展を見た
昆虫や花の細密画を描く画家だ
展示の文章の中で
「こども」と言うのが嫌だと
彼らは小さいだけで大人と変わらない
だから「小さな人」という言い方をしていた
小さな人たちに見せる絵に
うそがあってはならないと
夢中になって
寝そべって動かず写生するので
行き倒れのお年寄りがいると
救急車を呼ばれたこともあるそうだ
共感した
ただ年齢を重ねるだけで
立派になれる訳ではない
自省を重ねていかなければ
何も変わらないか
悪くなるだけだ
大人だってだけで
子どもよりえらいわけはない
同じ年
レイチェル・カーソンの文章に出会った
生まれつきそなわっている
子どもの「センス・オブ・ワンダー」を
いつも新鮮にたもちつづけるためには
私たちが住んでいる世界の
よろこび 感激 神秘などを
子どもといっしょに再発見し
感動を分かち合ってくれる大人が
すくなくともひとり
そばにいる必要があります
この一文が心に留まった
時が満ちたのだと思う
次の年
陸と海を迎えることになる
子どもは尊重すべき小さな人
感動を分かち合う大人であろう
早く大人にならなくていいゆっくり育て
という3つが
譲れない私の子育ての柱になる
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