双子確定
子どもは絶対にいらないと
思っていたわけでもなかった
27歳で結婚した当時の日記に
30歳でひとり
32歳でふたりめをと書いていた
けれど夫婦と犬とで気楽に暮らし
あと少し あと少しと
延び延びになって
この頃には
まぁずっとこのままでも
いいかと思い始めていた
こうなったら
ひとりの子どもを溺愛して
育てようと思った
そう思えば次々と
新たな希望も沸いてきて
仲間が増えることが
楽しみでもあった
4月6日
つわりらしきものが始まった
胃酸をアルカリ食品で
中和すればいいのだと
高校の家庭科で使った
食品栄養素の本を引っ張り出し
アルカリ度の高い食品を調べた
野菜や果物がそうらしい
食べ慣れている
ドライプルーンにしたら
効果てきめん
以後2ヶ月程
タッパーに詰めた
プルーンを持ち歩き
朝から晩まで食べていた
つわりは軽く
味噌汁がダメなだけで
あとは何でも食べられ助かった
2週間後
4月16日
出産すると決めた病院へ行った
診察のはじめに
そういえばと思いだし
前の病院で
双子の可能性もあるって
言われたんですけど
と言ってみた
私としては
それはないですよね~という
ニュアンスを含んで言ったのだが
即答で
「そうですね、双子以上は確実です」
と言われた
自分で双子と言っておきながら
驚きのあまり大声で
「双子ですか?」と返してしまった
しかも「双子以上」って
どういうことだ
「以上」って、
三つ子とか四つ子とか・・・
頭の中でその言葉が渦を巻く
胎児が重なっていて
超音波の映像に
写らないことがあるそうだ
胎児は12ミリ
まだ小さいので予定日は決まらない
大きさで判断するらしい
外の椅子で待つ母の隣に
崩れるように座り
「双子以上だって」と伝えた
母がどう答えたかは思い出せない
その夜 帰宅した夫に また
「すわりたまえ」と
向い合い
「もうひとり家族が増えるようです」
と伝えた
「ヘソ」
4月23日
早くも体に変化が表われた
唯一自慢の縦ベソは
指をつっこんだように
ポコッと丸く穴があいた
ヘソには底があった
子どものころからずっと
ヘソは底なしで
探求してはいけないところだと
思っていた
が いまや
白日の下に晒された
しかもメラニンの働きで
周囲はアンドロメダ大星雲状に
縁どられている
妊娠前
ヘソは格好の良い縦ベソで
数少ないお気に入りの
部分だったのに
悲しかった
その後ヘソは
隆起して山になり
産後はカルデラ火山状になり
1年が過ぎ
ふよふよの腹の真ん中で
縦に閉じた
「二黄卵」
どこかで納得はしていたのだが
動揺はなかなかは治まらなかった
4月27日
2回目の診察のとき
まだ双子ですか?と医師に聞いた
はじめの病院で
双子は一方が育たず
消えてしまうこともあると
聞いていたからだ
医師に「そんなに嫌ですか?」と
言われてしまった
恐る恐る
アラスカ旅行のことを話すと
双子は安定期でも安静第一
止めはしませんが勧めません
と言われた
それではマタニティスイミングは?
だめです!
あぁ双子って…
胎児は順調に育っていた
23ミリの後の陸が左下
21ミリの海が右上に着床した
月初にはまだ3ミリだったのに
すごい成長の早さだ
この日は私の33歳の誕生日
レストランで食事をしながら
アラスカへはいけそうもない
と夫に告げた
苦心して組んだ個人旅行だったし
安くあげるために
4人部屋にしていた
普通は1年前でなければ
予約が取れない宿も
偶然押さえることができた
夫には参加してもらい
代わりに行ける人を
探すことになった
いつものスーパーで
いつものように
いつもの卵を買った
翌朝
いつものように
目玉焼きを焼こうとすると
黄身がふたつ出てきた
翌日も
その翌日も
結局
そのパックの10個の卵全部に
黄身がふたつずつ入っていた
「観念しました!」と
天を見上げた
あれから約19年
そんな卵に出会ったことはない
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