割れる
双子はどちらの親戚にもいなかった
なぜ?どうして?
思い当たることはひとつしかなかった
落馬だ
3月初旬の落馬はひどかった
何度か落馬の経験はあるが
一番ひどかった
その乗馬クラブでは
初雪という年を取ったメスの白馬が
馬場馬術の登竜門だった
古強者の初雪は人を見る
私のことを「下手くそめ!」と馬鹿にし
しょっちゅう勝手に走ったり
動かなかったり
その日は雨上がりで
馬場が悪く水たまりも多かった
レッスン中 何度も反抗されて
私は落ち込んでいた
察したのか
初雪は広い馬場を思うがままに暴走し
私は必死でしがみついた
まっすぐに柵に向かって走る
恐怖!
ぶつかる寸前
初雪は跳ねて向きを変え
私は振り落とされた
柵にあたらなかったのが
不幸中の幸いだったが
水たまりの脇に落ち
服はドロドロ
腰をしたたかに打ち
痛さ4割
くやしさ6割で涙が出た
絶対に
この衝撃でパカッと割れたのだ
話すたびに皆は笑うが
私は本当にそう信じている
後に知るのだが
視神経を圧迫する腫瘍が原因で
11歳から目が見えなかった
ニュージーランドのリサ・リードさんは
2000年 24歳の時に
盲導犬をソファーごしに
撫でようとして転倒し
テーブルに頭をぶつけて
翌朝目が見えるようになったそうだ
そんな人だっているのだ
なにが起こるかわからない
妊娠が分かって
乗馬はできなくなった
鞍を買ったばかりだった
「下着」
産婦人科の待合には
通信販売の雑誌がいくつも置かれていた
手始めにマタニティ用の下着を買ってみた
ブラジャーはあまりに大きく
ショーツも顔が拭けそうなデカパン
しかし、双子を宿した身体は
私の意思とは関係なく「始動」モード
変体していくアニメのロボットのように
みるみるどんどん変わっていった
ゴールデンウイーク
ウエストは8㎝太くなり
少しポコンと膨らんでいる
いままでのジーンズはもうはいらない
友人に誘われ
長瀞にキャンプに行った
皆の目的はラフティングだったが
私はひとりで手打ち蕎麦を食べたり
のんびり散策したり
旅行だし 乙女心で
可愛い下着を持って行った
夜 風呂上りに着替えると
ゴムがきつくて耐えられない
すぐに予備に持ってきていた
例のデカパンに履き替え
助かった
パジャマのゴムも我慢ならなくなった
一度ぼくもコバック川でブレイクアップ(解氷)
の瞬間に出会ったことがあって、
それまで川は動いていないんですよね。
それはもう本当に感動しましたね。
それまで川はうごいていないんですよね。
それがポーンという音がして、
一斉に川がドーッと動きはじめる。
それは信じられないぐらいの、
静から動へ移っていく季節感というか…。
星野道夫 SWICH 1999 January
「決算とじんましん」
家を買った
3階の2つの洋室の壁を抜いて
広々使おうと思っていたが
そのまま
双子の子ども部屋にすることにした
4人仕様に作られた家と出会い
その策略にはまったかのように
みるみるうちに4人家族になってしまった
5月
会社の確定申告の書類作成で忙しく
毎晩遅くまで仕事をしていた
長く同じ姿勢でいると
腰が板になったように曲がらなくなり
痛む
数日後 朝 ぽつぽつと発疹が出はじめ
ダニだ!と思った
昨夏
海外旅行でカバンについてきた
強烈なダニがソファーで繁殖し
両足を100カ所以上刺されひと騒動だった
あの時のダニがまた繁殖し始めたのかと
駆除剤を仕掛けて家を出た
どんどんかゆみと発疹が広がるので
耐えられず
診療時間が終了した皮膚科に駆け込むと
ストレス性じんましんと診断された
薬を出そうとしてくれたので妊娠を告げた
先生は手を止め
「3.4日の我慢ですね」と言った
妊娠中の病気はつらい
胎児には影響ないとのことが不幸中の幸い
原因がダニでなかったのも良かったが
その夜
体中 腫れないところはない程ひどく
あまりの痒さに一睡もできず
一晩中 氷で身体のあちこちを冷やした
2日かかって腫れが引くと
翌日は発熱
ぼろぼろだった
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