満期
双子の満期と聞いていた36週を迎え
お祝いにスパークリングワインを飲んだ
翌朝5時ちょうど
アルコールが嫌だったのか
頭突きされる
恥骨の鋭い痛みと同時に
ゴンという音が骨をつたって
身体に響き目が覚めた
薄いピンクの出血
不安を感じながらベッドへ戻る
5時15分 25分 35分
10分ごとに痛みがやってきた
これって陣痛?
10分間隔
そこからが出産の開始と
母親学級で習った
6時15分
トイレですっと水の流れる感覚
破水?
でも初産なんだから
時間がかかるだろう
まとめてあった荷物に
ひまつぶしの本を入れて出発
病院までは車で15分
振動やカーブの度に痛むが
救急の入口あたりではまだ余裕
だが診察台でおなかに
陣痛の波を計る装置を
取りつける頃には
強い痛みが2分間隔になり
本を読むどころではない
子宮口は2㎝開き入院決定!
車椅子で病室に運ばれた
「陣痛」
はじまったらもう止まらなかった
張りつめた子宮は
一気に胎児を押し出そうとしている
陣痛の間隔はさらに短くなり
全身に力が入り声をあげずには
いられない
痛みが引いても体がこわばり
力を抜くことができない
ひと息つくごとに
次の痛みがくるようになった
いきみたいが子宮口が
開ききっていないのでダメだという
どうしたらいきまずに
いられるのかわからない
イルカと泳ぐために
何日も船に寝泊りしたときのことを
思い出した
ひどい船酔いになり何度も吐いた
吐いた後
気を紛らわすために歌った
また吐くがまた歌う
青い海に向かって
ずっとずっと歌い続けているうちに
気分も具合も良くなった
歌うのは恥ずかしいので
「あ、あ、あ」と言ってみた
はじめのうちはそれで切り抜けられた
あまりに強いときには叫んだ
耐えられそうなときも
気晴らしで叫んでみた
とにかくうるさい患者だった
一度気晴らしで叫んだとき
モニターを見ていた先生から
「今は痛くないはずです」と
冷静に言われた
「分娩室」
激痛は重なり合って
叫ぶだけではまぎれず
いきまずにはいられない
痛みの都度夫の手をきつく握る
夫の手と
腰をマッサージをしてくれている
助産師さんの手の温もりが
支えだった
これだけ産気が強ければ大丈夫だ
もう分娩室に移動しようと
医師が言った
ベッドからストレチャーへ
ストレッチャーから分娩台へ
体は鉛のようで
動くのはとてもつらい
その間も激痛は容赦なく続く
やさしいピンクの病室には
陣痛・出産・休養の設備があった
ふつう 移動をせずに
完了できるのだ
しかし多胎児の普通分娩には
かかわる医師・助産婦の
人数が多いことと
急遽帝王切開になる可能性も
あることで
広く無機質な分娩室になる
安静入院もせず
普通分娩で出産というのは
めずらしいケースだった
実際
多胎児のほとんどは帝王切開で
別フロアーの手術室を使う
分娩室を使うのは半年ぶりだという
不思議なことに
半年前に分娩台を使った
その母と男女の双子に
三年後 出会い 友人になった
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